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ダイジェスト

ここのところ何だかずっと忙しく
いろんなことが目まぐるしく起こり
心も体もくたくたになってしまった。

今よりももっとのんびりおっとりと生きていた十代の頃
「いつも忙しい大人」に憧れていた。
仕事も私生活も充実していて
交友関係も広く回りも放っておかない
いつもスケジュール一杯の忙しい人
活き活きとして何だかカッコイイなあと。

なりたくて努力したわけでもないが
気がついたら結構「忙しい人」になっている今の私
憧れの「忙しい人」になれて嬉しい?こんな私はカッコイイ?
いやいや、そんな気には全くならず
代わりにただひとつ切実に思う
「一日30時間欲しい!!」と。

最近の出来事をいくつか掻い摘んで...

⑴ 460人分のポストレを作った。

イグナシ・ドメニックという昔のカタルーニャのシェフ(故人)の本が
何かの賞を受賞したということで
そのシェフに敬意を表するディナーが催された。
現代の4人のカタルーニャのシェフのコラボレーションで
各々が一皿を受け持ち構成されるコースメニュー
そのディナーで我等のボス、オリオールはポストレを担当することになり
それは必然的に私の担当となったのだった。

乾果のテリーヌとコーヒーのジェラート
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日頃から作っている、ロンドン出張の際にも作ったポストレ。
ヘーゼルナッツのバタークリーム
アーモンドのスポンジ
チョコレートムース
などが層になったテリーヌで
濃厚で確実に美味しいが、結構手間のかかるものでもある。
460人分作れと言われたら作る、出来ませんとは言えないので
混ぜるのに力が必要な部分以外は全部1人で仕込みをやり遂げた。
ジェラートは20ℓ、作ったテリーヌをひたすら1000個切り...
おかげで200人分くらいは楽に思えるようになった。

⑵ テレビ出演!?

TV3(テヴェ・トレス カタルーニャ放送)の
さまざまな分野をレポートする番組に
オリオールがインタビューを受け、出演した。
カメラは厨房の中をあちこち撮っていて
カネロンを作っていたチャビやパイ生地を伸ばしていた私も映ったのだ。
翌日皆に「君も出てたね!」と言われたが私は見ていない。
結構メジャーな番組なのだ。

「ダイジェスト」といっても全部書くとキリがないので
もうひとつだけ...






⑶ また大失敗

ほぼ満席で厨房は混乱気味なある土曜の昼
ある大切なお客がいた。7名のテーブルだった。
シェフはこの7名のポストレの1つに
スペシャルバニラのジェラートを用意しろと私に指示した。

私は3種類のバニラのジェラートを持っている。
1「メヌー」のためのバニラのジェラート
2「カルタ」のためのバニラのジェラート
3 スペシャルバニラのジェラート

1の「メヌー」(定食の意)はホテルのお客用、子供用の市販のジェラート。
2はレストランのメニューブックから選んで食べる、
つまりレストランのお客のためのバニラのジェラート
アップルパイにバニラのジェラートという定番のポストレがあり
そのために作っているもの。
3はときどき特別なお客に出すもので
通常のバニラの3倍程の太さのタヒチ産の高級バニラを使って作ったジェラート。
自分で作っていてこう言うのも恐縮だが
2のジェラートもそれなりにきちんと作られた十二分に美味しいものだ。
しかし3のそれは、濃厚なバニラのアロマで喉の奥が軽く咽せるような
違いが歴然とした、スペシャルなジェラートなのだ。

私はこの「7名のスペシャルバニラ」を周到に準備していたのだが
その後営業は混乱に陥り、
7名のうちの3名がポストレをパスしたので
7名は4名になり
アルバイトの女の子が私に「カルタのバニラのジェラートを4つ」と頼み
まさかそれがその大切なテーブルのものだとは思わなかった私は
普通のバニラのジェラートを4つ
しかも急かされていたので
ボンッとひどい盛りつけでそれを出したのだ。
その5分後に間違えたことを知った私は
ショックのあまりにその場で泣いてしまった。
オリオールは一生懸命私を慰めてくれたが
翌日もそのまま暗く過ごしおまけに風邪までひいて
翌々日の休みは1日ベッドで寝たきり。

皆の前で泣いたことで
とにかく激しい自己嫌悪に陥った。
自分が実は泣き虫で弱虫のように思えたのだ。
しかし時間が経過し、何で泣いたのかを冷静に考えたら判ってきた。
やっぱり悔しかったのだ。
きちんと用意していたのにそれが出せなかった。
そして常日頃私は何のためにこんなに働いて仕込みして
これ以上できないくらい頑張っているのか
それは全て最高のひと皿を出す「最後の瞬間」のためじゃないか。
今回はその「最後の瞬間」が悲惨な結果となり
つまり日頃の努力が全く報われなかった
それに対しての悔し涙だったのだ。
そう思ったらもう自己嫌悪は薄れてきた。
私は泣き虫でも弱虫でもない、ただ一生懸命なのだ。

オリオールは泣いていた私を慰めながらこう言った。
「お客が満足する以上に君が満足していることのほうが
僕にとってはより大切なんだ」と。
そのときの私にはどんな言葉も耳に入らなかったけれど
今になってその言葉が心に響いている。
そんなことを言ってくれる上司が
一体どれだけこの世の中に存在するだろうか!


というわけで回復後から今日まで
怒濤の仕込みに挑戦した。
明日からのヴァカンスのために。
たまには厨房を出ることも必要だ。
ってよく出てるけど...


(1週間シチリアへ行ってきます
パソコンとパンダは留守番なので
更新は旅行後にさせていただきます)




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by tomo114t | 2006-05-15 07:17 | エルス カサルス
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