「ポストレ」という仕事

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ある日イチジクのタルトを作った。
サブレ生地、イチジク、わずかに甘いホイップクリーム
究極にシンプルなタルトにチョコレートのジェラートを添えて。
「イチジクは4つ切りで、全て違う方に向けて並べて、真ん中をこんもりと高く
山のように盛れ」というシェフの意向に忠実に。

エルス カサルスでの私の主な仕事は
「ポストレ」 デザートを作ること。
現在レストランのカルタ(メニューブック)には
7つのポストレがある。

チーズの盛り合わせ

ジントニック
(青リンゴとウイキョウの小さな角切りが入ったジントニックのゼリー 
 その上にヨーグルトの泡をのせる)

アップルパイとバニラのジェラート

乾果とチョコレートのテリーヌ、コーヒーのジェラート

ヘーゼルナッツの温かいケーキ(中はゆるくて切るとトローッと崩れる)
 レチェ メレンガダ(シナモン風味のミルクセーキ)のジェラート

ボラッチョ
 (ボラッチョの意味は、酔っぱらい。ババのようなブリオッシュの洋酒入りシロップ  
 漬け。アプリコットのコンフィとバニラのソース、抹茶のミニアイスキャンディー
 添え)

アフリカ
 (アフリカの黒いものを集めたデザート。
 ケニア産のチョコレートのクリーム、タンザニア産のチョコレートの泡
 コーヒー風味のクスクスのチュイール、黒砂糖のシャーベット)

これらの皿を完成させるために必要なパーツを全て揃え
いつでも最良の状態で出せるようにしておかなければならない。

それに加えて
コーヒーや食後酒と共にサービスする小菓子
カルキニョ−リ(アーモンド入りの固いビスケットでカタルーニャの伝統菓子だが
イタリア、トスカーナのカントゥッチョとよく似ている)
トリュフチョコレート
マカロン、ミニマドレーヌ
などを作るのも私の仕事だ。

それに加えて
ホテルの宿泊客のための
もっとシンプルで大衆的なポストレ
フラン(プリン)
クレマ カタラナ(クレームブリュレ)
などを作るのも私の仕事だ。

イタリアで、カタルーニャで
成り行きとは言えこんなにもどっぷりと「甘いもの担当」になるとは...
しかしよくよく思い出してみれば
母の実家は熊本のある海辺の小さな町の菓子屋。
早くに他界し一度も会ったことのない祖父の
菓子職人の血が私にも流れているはず。
やはりここでも偶然は必然であるのか
此処にきて以来なぜかこの祖父の存在を意識するようになり
いつも心の片隅に「おじいちゃん助けてね」と思う気持ちがある。

「ポストレ」は、誤魔化しがきかない。
途中行程の小さな妥協や失敗が後の仕上がりに大きく表われてしまう。
大切なのは、正しいプロセス、最良のレシピ、正確な計量、
泡立てたり混ぜたり、その都度その状態の良し悪しを見極める目、
どんなに作り慣れたものでも、いつも「初めて作る」ような気持ち

そして出来たものを愛おしく思うこと。

トリュフチョコレート。
チョコレートでコーティングをして
仕上げにカカオの粉にくぐらせる。
両手で粉の中から掬いあげたときに現われる
コロコロ、ツルンとした姿。
ミニブリオッシュの
オーブンの中でキノコのような頭をパンパンに膨らませている姿。
そんな姿を目にしたら
何だか自分の分身のように思えて
可愛くて仕方がないのだ。

同じものを何十回、何百回と作っても
決して飽きることがない。



 
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by tomo114t | 2005-10-27 04:22 | エルス カサルス
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